憧れのヒーローの話
最近、竹富-石垣間をつなぐ定期船に新造船が加わりました。
観光で訪れるお客様の足として、なにより島に住む人や働く人の交通手段として、無くてはならない定期船。
乗り慣れた船も良いですが、新しくてピカピカの船には早く乗ってみたいなぁと感じるものです。
それは子供達の間でも話題になるらしく、
「○○ちゃんもうあやぱに号のった?」
「まだのってな~い」
「ぼくはもう3回ものったよ!」
「い~なぁ~」
というような会話を耳にします。
新造船がでると保育園の男の子たちは競い合うように、新しい船の絵を描きだすそうです。
子供の憧れはいつでも近くにあるもので、都会の子供たちが新幹線や電車の運転士さんをかっこいいと思うように、いつも乗る船の船長さんは憧れの的なのでしょう。
島の子供達の憧れの的は船長さんばかりではありません。
離島故に何でもこなすおじさんやお兄さんが竹富島はいっぱい居ます。
ビーバーをかっこよく使いこなすお兄さんも、タイヤシャボを運転して行き来するおじさんも、子供達はキラキラした目で見上げています。
ある時、家の前でショベルカーをつかった工事が始まり、庭で遊んでいた男の子は大喜び。憧れのショベルカーが自分の家の前で穴を掘っているのです。
大興奮で自分のおもちゃのショベルカーをおじさんが運転する本物と同じように動かしては、穴を掘ったり砂を移動させたりして遊んでいると、工事をしていたおじさんが、たった今掘り出したばかりのさらさらの砂を大きなスコップで山盛り一杯、ザッ!。
男の子の目の前に「はい!これで遊べ!」と置いて行きました。
キラキラキラ~~~☆憧れの眼差しを向ける男の子。
この子のヒーローは間違いなく、作業着のこのおじさんです。
いつまでもこの砂山とショベルカーで遊んでいたそうです。
また、島の清掃ともなると島の男たちは手に手にビーバー(草刈り機)を持ち、雑草を刈っていきます。
ブーンブーンとけたたましい音と容赦なく雑草を刈り取っていく様が子供達の目にかっこよく映るのでしょうか。
ビーバーに憧れた男の子がお母さんにビーバーがほしいとねだりました。
ビーバーのおもちゃなんて聞いたことがありません。
そのお母さんは考えに考え、棒に針金ハンガーでハンドルを作り、棒の先に小さなおもちゃの扇風機をガムテープで取り付けました。
スイッチを入れると本物さながらにブーンと回り出します。
よほど嬉しかったのでしょう。
お家に来る人くる人、スイッチを入れては手作りビーバーを披露したそうです。
島の祭りで棒を打つお兄さんやお父さんも子供達の憧れの一つです。
迫力満点の棒の演技に子供達は魅了されて、格好を真似してみたり、手作りの棒や刀で友達同士戦ってみたり。
種子取祭前後は「ヒヨー!ヒヤー!」とかわいい掛け声で真似をしては、自分が演じている姿を想像しているのでしょうね。
そういえば、今演じている大人も、そうやって小さい時に手作りの刀で真似した子供達でしたね。
あの頃、夢見た演技ができているでしょうか?
子供達にとって、一生懸命に島を支え、汗をかいて働く大人は、みんなヒーローなのかもしれません。
島を支える大人たちの背中を小さな澄んだ目が見つめています。
(NPOたきどぅん会報Vol.57 2018年10月より)