沖縄タイムス2006.9.12 掲載記事

景観と人の心に潤い
NPOたきどぅん理事長 上勢頭保


竹富島観光の現状を踏まえ、「NPOたきどぅん」設立の経緯とその必要性を、七月五日付本紙で紹介した。今回は、最近の活動状況と今後の在り方を展望してみたい。
竹富島は、自然・歴史・伝統といった、文化遺産を数多く継承してきた。NPOたきどぅんは、これらを観光資源と位置付け管理するとともに、まだ十分に生かされていない資源を活用することを目的としている。
現在、竹富島は年間四十万人を受け入れ、観光業が基幹産業となっている。著しい観光客の増加は観光業界全体から注目されると同時に、島に対する観光需要(ニーズ)の多様化が進んでいることも実感している。
しかし、多くの旅人が真に求めているのは、島固有の自然景観や暮らしなど、文化遺産との触れ合いではないだろうか。
NPOたきどぅんでは観光客がより深く島人の生活に触れることのできる、システムづくりに努めてきた。2005年度は、「観光ルネッサンス事業」として、国土交通省の助成を受け、町指定の文化財である前與那國屋(マイユヌンヤ)周辺を整備した。前與那國屋は東集落の屋敷で、現在のフーヤ(母屋)は1913年に建築されたことが、棟木に記された日付からうかがえる。
この伝統的な屋敷づくりは、ただ復元するのではなく、その周辺の環境も含めて整備する必要がある。それは「沖縄の原風景」を重層的に演出するためである。そのため、フーヤのみならずオーシ(豚小屋)を復元させ、同時にグック(石垣)を積み直し、庭には樹木や草花を植栽して、島の生活が体感できる環境を整えたのである。竹富島の誇る町並みは、現在も個々の文化遺産が複合した、重層的な空間をつくり出しているのである。
さらに、来訪者の便宜を図り、近くの屋敷に公衆トイレを新設した。また、沖縄県が「新万国津梁の時代」と称して、産業経済のグローバル化を進めるように、外国人誘客に配慮して、英語と中国語での案内標識を設置した。今後は前與那國屋を中心に、島の生活が体験できるようなプログラムの開発を行い、質の高い竹富島観光の実現を目指している。
そのほか荒廃の進む空き屋敷を整備して、それらを観光のサポート施設として活用していくことも、視野に入れて取り組んでいる。
近年、自転車による島内観光が盛況である一方、観光スポットの周辺に自転車を放置する傾向があり、観光客のマナーが問われている。その対応策として、本年度より竹富公民館所有の古井戸「アーラカー」とその周辺、および空き屋敷を整備し、駐輪所と休憩所を設置する計画を「フィリップモリス事業」として実施中である。これには古井戸に水くみポンプを設置して再活用する企画も含まれている。先人の掘った井戸はこれまで放置されたままであったが、それが景観や観光客に潤いをもたらすとなれば、有意義であるにちがいない。
『沖縄タイムス』2006.09.12

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