書評 竹富町史 『竹富島』 (2/28付八重山毎日新聞)
2月28日付の八重山毎日新聞には、
沖縄観光コンベンションビューロー主催による
「花メッセージコンテスト」に
竹富小中学校が3位入賞の記事が1面に。
さらに、
沖縄大学客員教授で沖縄竹富郷友会長である
真栄里泰山氏による
竹富町が刊行した竹富町史『竹富島』の書評が
9面に掲載されています。
昨年は4位、今年は3位とランクアップした
竹富小中学校のみなさまの努力を称えつつ、
今回は真栄里泰山氏の書評をUPすることにします。
竹富町史『竹富島編』は、
竹富島在住の諸先輩方や竹富島出身の諸分野の先生方、
さらには研究者が執筆されており、
竹富島の歴史・文化・民俗を知るうえで、
上勢頭亨著『竹富島誌』に勝るとも劣らない
大変ボリュームのある内容となっています。
現在、竹富町史『竹富島』は石垣島の書店、
タウンパルやまだで販売されていますが、
竹富島では4月頃の販売開始を予定しています。
ですので、
ブログをご覧のみなさまには、
できれば、
竹富島で購入していただきたいと思っております。
お楽しみに!
(ta)
竹富町史『竹富島』 真栄里泰山
待望の竹富町史第2巻『竹富島』が刊行された。
既刊の16巻の資料編とともに、域内離島を「島じ
ま編」としてそれぞれ一巻の通史として独立させ、
それを総合して町全体の通史を浮かび上がらせよう
という竹富町の編集計画。その注目のトップランナー
が、今回の『竹富島』編である。16もの島々から
なる島嶼町・竹富町ならではのユニークなこの方式は、
島嶼県の地域史編集のあり方として高く評価される
ものだ。
竹富島に関してはこれまでも実に数多くの研究書や
出版物がある。最近では八重山毎日文化賞、菊池寛賞、
沖縄タイムス出版文化賞を受賞した前新透氏外の大著
『竹富方言辞典』が話題となったが、この『竹富島』
編の刊行で島への関心はまた一段と高まりそうだ。
沖縄竹富郷友会歌にもあるように、「神島」「要島」
「うつぐみの島」として、八重山で独特の位置を
占める竹富島。多くの御嶽、伝承、遺跡が伝えられ、
民俗芸能や祭祀(さいし)行事、景観や土地を守る
活動等々、重要伝統的な島社会を保存維持するため
島人の懸命な努力が続けられている島である。
国指定重要無形民俗文化財の種子取祭をはじめ
伝統的建造物群保存地区、自然景観保全ゾーン、
生産景観形成ゾーンなど歴史的景観形成地区の指定
など、島全体が「歴史民俗博物館」といえる、美しい
人情豊かな島である。
今回の『竹富島』編は、序章の島の概観、集落と
自然、歴史と伝承、教育、人と暮らし、信仰と祭祀、
人の一生、言語伝承、竹富島の芸能、人物、年表、
終章の12章構成。島の歴史を先史時代から現代まで
総覧するとともに、竹富島の島社会の各分野を網羅
して、要領よく解説紹介した学術性の高い
「竹富島総合百科事典」というべきものとなり、
装丁もB5判、700ページの大型本である。
歴史と伝承の分野は、これまで比較的フォークロア的
な歴史叙述から、歴史科学的に整理され充実した通史と
なった。発掘遺跡の検証をはじめ竹富島の村創生の
ムーヤマ(六御嶽)の神々を「文化英雄」とし、
オヤケアカハチや群雄割拠といった時代評価、琉球王国
の八重山統治機構としての竹富島に蔵元を設置した
武富大首里大屋子の西塘を「古琉球から近世琉球を結ぶ
人物」として八重山史に位置付けるなど随所に新しい
見解が伺える。
また、薩摩侵攻後の検地や人頭税制など、竹富島の
寄百姓分析や人口推移などの実態が解明され、「道切
り」という強制的な寄百姓政策の効果が、結果的には
琉球の財政立て直しではなく、島々の増大する人口対策
と耕地確保であったと指摘するなど、島の中近世史像が
明確となっている。
また、これまで手薄だった島の近現代史についても、
異国船来航、廃琉置県、日清の琉球分割交渉など、
琉球沖縄史全体を展望しつつ島の歴史過程が語られる。
明治政府による土地整理、町村制の施行はじめ日清・
日露戦争、徴兵、忠魂碑や皇民化教育、標準語教育、
国家総動員制による太平洋戦争が、平和な島共同体を
どう巻き込み、展開されたかなど、辺境で強行された
日本国家の統合過程を明快に整理して、歴史の縮図と
しての島社会を浮かび上がらせ、歴史の教訓をさりげ
なく伝えるものとなっている。
とりわけ、民俗学の宝庫として内外の関心が高い島の
信仰や祭祀、暮らしの分野においては、最新の学術的
成果がいかんなく盛り込まれている。ムーヤマ信仰の分
析、種子取祭と火の神、ゆるやかな祭祀集団の指摘など
は、竹富島の人々や社会の特質に迫る分析でもあろう。
衣食住、人生儀礼、生業、労働慣行など多様な項目や
詳細な解説といい、島出身の狩俣恵一沖国大教授を
はじめ島人の参加で、竹富島の民俗文化誌としては
これ以上ない決定版にしている。
竹富島では現在、竹富島憲章の制定、地縁団体法人
竹富公民館、NPOたきどぅん、全国竹富島文化協会
の組織化など、島人の自主的自律的な地域づくりが続い
ているが、この『竹富島』編は、これら島づくり、地域
づくりの報告書ともなるものだ。
1647年から2010年まで363年間の竹富島
人口動態表は、この島のすう勢を示す極めて興味深い
資料である。現在317人の島人口に対し来島者は年間
30万人を超え島はにぎわっているが、少子高齢化、
過疎化が解消されているわけではない。
グローバル化する政治経済、行財政改革の中で、
この本にまとめられた島の豊かな民俗祭祀、暮らしは
将来どうなっていくのだろうか。近年は島しょ防衛論が
声高になるなか、平和な島社会の内発的発展、地域の持
続的発展はどうしたら可能なのか。悩みは尽きない。
日本返還40年を迎える沖縄では、自立志向が一段と
高まっているが、島々の振興をどうするかは大きな課題
である。この国の国民幸福度も見直され始めているが、
この竹富町史『竹富島』の刊行を契機に、あらためて
沖縄の島じまの過去・現在・未来について考えたいもの
である。
(沖縄大学客員教授、沖縄県地域史協議会会員、
沖縄竹富郷友会長)
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