シカの話

竹富島の港からすぐそこに見えるのが、石垣島。
高速船に15分も乗れば到着する距離。1日に何便も運行しており、とても便利に、近くなりました。
しかし、60代の母がお嫁に来た頃は、午前1便、午後2便。石垣まで行くのにポンポン船に揺られて、30分。そんな運航だったようです。ですから石垣に行くとなると一日がかり、さぁ出かけるぞ!という気合いも必要でした。
そんな母が港で船を待っていると、「ソバ食べにか~?」と声をかけてくる島の人達。なぜ、石垣にそばを食べにいかなければならないのか?なんで必ずそうやって聞くのか?不思議だったそうです。

その昔、もっともっと船の便数が少ない頃、石垣にお出かけして用事をすませ、竹富行きの船を待つ間にそばを食べるのが最高の楽しみだったそうです。
そばと言っても、もちろん八重山ソバですが、早い!安い!うまい!のソバを食べてくるのが、いつしかステータスとなっていったようです。
今でも、竹富島の港で船に乗る人に「ソバ食べにか~?」の挨拶ができる人は竹富通といえるでしょう。

ところで、竹富島の人達は石垣島の事を方言で「イナシ」と言ったり、「シカ」と言ったりするのをご存知でしたか?
イナシは知っていましたが、「シカ」って…。
石垣島でも昔からある村(登野城・石垣・大川・新川)が4つ有り、その4つの字をさして「四カ字」シカアザ、シカと言ったとのことです。
今でも80代90代の方が使っているのを聞いたことがあります。
亡くなった私の祖父も石垣島の事をそう言っていました。
ある時、玄関で靴を履いている祖父に「じいちゃん、どこに行くの?」と言ったら、「シカにさ!」と言って出かけていきました。
しばらくして、祖母に「じいさんがどこに行ったかしらないか?」と聞かれ、「歯医者に行ったよ」と教えてあげたら、「歯が痛いようなこと言っていたかなぁ~?」と首をかしげる。
なんだか話が噛み合わないなぁと思い、「だって、歯科に行くって言ってたよ」ともう一度言ったら、「あぁ~!!シカに!あんたそれは石垣に行くって意味さ、歯医者に行くってことじゃないわけ。はぁ~っもぅ!てぇーどぅん人と思われん!」っと怒られ、祖父は元気いっぱい石垣島にお出かけしたのだと知りました。
石垣島はヤギでも羊でもなくシカ。

あぁ、今日もここからシカがよく見える。

(NPOたきどぅん会報Vol.55 2018年6月より)