サンタクロース
『琉球の歴史と文化―“おもろさうし”の世界―』(2007年)に
興味深い論文がありました。
波照間永吉「“おもろさうし”の神出現の表現」です。
首里王府編の神歌集『おもろさうし』においても、
南島各地の祭祀と同様、
神は特別な時間・空間に現われます。
そのとき大きく2つの表現に分類できるというのです。
ひとつは神が垂直方向に移動する「垂直移動型(降臨型)」。
もうひとつは神が水平方向に移動する「水平移動型(来訪型)」です。
つまり、『おもろさうし』で、
神は天上から降臨してくるものと、
海上の彼方から来訪するものと、
2種類の表現があるというのです。
分類の方法は、前者「おれる」(降りる)、
後者は「あよむ」(歩く)、「つく」(着く)という語を
キーワードにグルーピングしています。
「つく」に注目すると、
竹富島の年中行事「ユーンカイ」(世迎え)でうたわれる、
神歌「とんちゃーま」には、次のような歌詞があります。
たきどぅんに とぅるすきてい(竹富島に取り着けて)
なかだぎに ひきすき (仲嵩引き着けて)
これからもわかるように、
「とぅんちゃーま」は明らかに「水平移動型」に分類されます。
また、冒頭で「あがとから くるふにや」(彼方から来る船は)と、
うたわれていることや、祭祀の舞台が海浜でなされること、
「ミルクユ」(弥勒世)を載せた神船を招く所作を伴うことからも、
よく理解できるのではないでしょうか。
波照間氏は、『おもろさうし』には、「とぅんちゃーま」のような
「水平移動型」の歌は少ないといいます。
そして、結論として次のようにまとめています。
「水平移動型の神出現の表現がきわめて少ないことは、
現在の民俗に色濃く残るニライ・カナイなどの水平他界観が
『おもろさうし』では希薄化しているためだと考えられる。
そしてここに『おもろさうし』の他界観の特徴がある。
首里王府における天上他界観の形成と強化が(中略)
王権保持のために王府がいかほど心血を注いでいたかがわかるだろう。
『おもろさうし』は王府のこのイデオロギーに基づいて
編纂された書物だったことがここからもわかる」。
ところで、今日はクリスマス・イブ。
聖なる夜という特別な時間に、
よい子にプレゼント(ミルク世?)をもたらす、
サンタクロースの出現は、
はたして「降臨型」なのでしょうか。
あるいは「来訪型」なのでしょうか。 (YI)
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