新春随想

本日の『八重山毎日新聞』に、
佐野滋氏が「新春随想」として
「竹富島の新年を歩く」という、
味わいのある文章を寄せています。
             (YI)


佐野滋「竹富島の新年を歩く」
『八重山毎日新聞』20058.01.20
 「正月三が日は暖かい竹富島で過ごそう」と決めて、今年も島にやって来ました。5年続けて八重山での迎春です。元旦と2日は曇天、北風が吹いて肌寒いちょっと期待はずれの天候になりましたが、島を歩くと思わぬ新しい発見もあり、心豊かな新年を過ごすことが出来ました。
 代表的な沖縄民謡として全国の人々にも親しまれている安里屋ユンタが生まれるきっかけとなった美女クヤマの墓はどこにあるのか、まず尋ねてみることにしました。西桟橋から北へ磯づたいにしばらく歩いて砂浜から坂をちょっと上ったところに、ひっそりとその墓はありました。
 墓の前にある石碑には、伝説のように今日に伝えられている島の美女クヤマと役人にまつわる物語の解説があります。島の町並みにあるクヤマ生誕の地はこれまでに幾度となく訪れていますが、墓を見るのははじめてのことです。墓の前で竹富島の昔にさまざまな思いをめぐらしていると、三線が奏でるあのユンタの調べが心によみがえって来ました。
 竹富島の西の浜辺をゆっくりと歩くと珍しい光景に出会います。浜にはいろいろな樹木や植物が群生し、それらが防風、防潮の役目を果たしていますが、よくみるとからみあった樹木の根元が押し寄せる波に洗われてむき出しになり、まるで前衛美術のオブジェのようにいくつも立ちならんでいます。浜辺はさながら自然がつくり出す作品を展示する美術館のようです。
 3日は日差しがもどり、少し歩くと汗ばむほどの陽気になりました。夕暮れ近く、コンドイ浜で見つけたゆうなの花は、ひっそりとつつましやかに優雅な姿を見せていました。
 その黄色の花が夕日をうけてあかね色に染まる色彩の変化の美しさも、また自然の美術館にふさわしいものです。
 コンドイ浜と西桟橋のちょうど真ん中あたりにニーラン神石(かんとぅい)があります。ニライカナイから神様をお迎えする場所ですが、ふと見るとくちばしの長い白い鳥がこの神石のすぐ近くの磯で小さな魚をくわえているのが目にとまりました。新年早々この光景を目にして、新しい年への期待…今年は何だか豊漁の年になるのではないかという予感が脳裏をよぎりました。
 島に来るといつも「歩く竹富島」を実行しています。しんねんから路傍の草むらに蝶々が舞う竹富島、歩いていると何か心がはずんでくるような気分になります。一日中、町並みの道と浜辺を歩き回った後、歩数計は何と2万6000歩を記録していました。そして新年の3日間では実に合計7万歩以上島を歩いたことになります。今年も新春の竹富島で心身ともに生命の力をちきこまれ、豊かな新しい年の幕開きとなりました。
 安里屋のクヤマの墓をたずね来て
 島の昔を偲ぶ新春
 コンドイの浜は自然の美術館
 ヒルギの根元オブジェと紛う
 夕暮れの西の浜辺に佇めば
 黄色のゆうな茜に染まる
                                                                     豊漁の年の予兆か白き鳥
 神石に来て雑漁くわえおり
 新年に蝶が飛び交う島の道
 はずむ心の2万6千歩
 八重山の生命力みなぎる島に来て
 新春を迎えり心豊かに